<光と建築>
・パリ近郊、ル・ランシーのノートルダム教会
鉄筋コンクリートの建物が造られるようになって最初期の教会。建築家オーギュスト・ペレにより1923年にパリ近郊のル・ランシーに建てられた教会です。
パリ、シテ島の有名なサント・シャペル教会のステンドグラスもすばらしいのですが、観光客であふれていたのに対して、このル・ランシーのノートルダム教会は観光客もなく、存分に空間を体験することができました。
以前、パリに来た時には、このル・ランシーの教会は修復中で外には工事用の足場が立っている状態で中を観ることができませんでした。今回、初めて中に入ると、そこはステンドグラスを透した光の幕に包み込まれるようなすばらしく、感動的な空間でした。
・プロヴァンスのル・トロネ修道院
こちらは、プロヴァンスにある12~13世紀に建てられたシトー派の修道院です。
装飾を排除し、床も壁もヴォールト状の天井も全て石で造られ、その静かで厳粛な空間はまさに心が洗われるようです。
光と陰、明と暗。一つひとつ積み上げられた石だけの簡素な空間なのに、その光の存在感、表情の豊かさに心を奪われ、建築空間の原点を見るような感じがしました。
建築家ル・コルビュジェがここを見た後、ラ・トゥーレットの修道院を設計したといわれている他、多くの建築家に影響を与えてきた建物です。
今回訪れたこの二つの建築は、どちらも簡素ながら、その光の存在感に圧倒される空間でした。明るく均等な人工照明の下では決して感じることができないものです。ル・ランシー・ノートルダム教会は鉄筋コンクリートの細く軽快な空間、ル・トロネは石による重々しい空間と対極を成し、差し込む光にもそれぞれ違った重さと語りかけがあるようでした。
光を考えることは住宅にとっても大切なことです。かつて、デンマークの住宅に滞在させていただいた時、住宅の照明について「日本では、まだまだ照明計画への認識が低く、部屋の中をみんな明るくしないとクレームになりかねない。」と言ったら、「デンマークではみんな明るくしたりしたら逆にクレームになる。暗いところをボーッと眺めて目を休ませたり、考えたりすることもできやしない。キャンドルも楽しめない。」と言われたこと、以前、協働した照明デザイナーが「照明器具が欲しいじゃなくて、そこで必要とする光が欲しいだけなんだ。」と言っていたことなど、さまざまな経験を思い出しました。
「明と暗」を考えること、光をどのように扱い、光からどのような恩恵を受けるか。あらためて建築空間にとって光との関係は奥が深いことだと認識させられた建物でした。